僕が彼女を見かけたのは、短い春が終わり、長い雨の季節が到来した頃だった。僕が通う高校は家からすぐ近くにあり、僕はその日もいつものように、憂鬱とした気分で家を出た。しかし、その日はいつも通う県道を避けて学校へと向かった。雨が振っていたので車が通る道が嫌だったとか、少し時間に余裕があったとかいう言い訳的な理由もあったが、本当はこれといった理由はなった。ただなんとなく、いつもとは違う気分を味わいたかった。
僕の視界に映る雨に濡れた街は、僕が生まれてから今に至るまで、生活し続けている街である。どこへ行こうと見慣れない景色などあるはずはなかった。僕の通う高校もまた、同じ街の中にあった。
それでも僕はその日、不意に懐かしい街の一画に出会って驚いた。
日々の生活の中で忘れていた場所である。
その道は、僕が中学時代に通った道だった。もう三年も昔になる。あれ以来、僕はその道を通る機会がなかった。通る理由もないし、通りたくはなかった。住宅地、ポプラ並木、学校そして、その先の角を曲がると見える小さな公園。街は何も変わってはいなかった。
僕は傘越しに広がる街並みをそそくさと歩き抜けようとした。学校へと向かう中学生の人並を通り越し、角を曲がる。
その時僕はそれをはっきりと見た。もうずっと忘れていた思い出である。それがゆっくりと蘇ってくる。
道を曲がった先にある、小さな公園。
僕が立つ場所から道の向かいにある小さな公園に、彼女は立っていた。
薄い茶色の傘をさして、僕に背を向け、公園の脇に立つ梔子を見める少女。顔は解らないが、それは僕の中にいる彼女だった。
まるで僕の瞳に四年も前に焼き付いた景色をそのまま映し出しているようだった。
僕はとまどった。彼女が、あの高原彩であるかもしれないということに。